ここでは、熱処理に関する「よもやま話」や、昔の仕事の思い出などを掲載しています。今の世代の人が耳にすることもないローカルな内容なども掲載しようとおもっています。
(担当:第一鋼業 野中豊)
以下の項目をクリックいただくと各項目に移動します。
◎熱処理の不具合の第1位は「異材混入」
◎熱処理変形対策の第1歩
◎鋼種がわからないけれど熱処理できますか?
◎マスプロ化した昨今の熱処理屋事情
◎どんな熱処理をする?
「異材」とは、お客様が持ち込まれた品物の鋼種名と実際の鋼種名が違うことで、まちがった名前のままで熱処理してしまったために、硬さが入らなかったり、割れてしまったりすることで不具合を生じます。
それが何と、当社における熱処理不具合の第1位が、この「異材混入によるトラブル」で、当社でその間違いをすると大変なことですので、色々な対策をしていますが、お客様の取り扱い過程で、ほとんどすべてが熱処理前にどこかで入れ替わって持ち込まれています。
材料メーカーでも非常に「異材混入」を恐れていて、メーカーでは独自の方法で鋼材を色分けしたりシールを張ったりして鋼材名を間違わないように区分されていますので、メーカーや熱処理加工中に間違うことはほとんどないのですが、メーカーから出荷されてからの流通販売加工過程で、切断した他の材料と混ざったり、加工の際に他の材料と取り違ったりするケースが多いようです。
鋼種名を間違えると、商品をダメにするか、少なくともお客さんの希望で再熱処理する場合でも熱処理代を再度請求されることになってしまいますので、気をつけるに越したことはないでしょう。
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工具鋼の場合にはJIS鋼種名として流通している鋼は全体的に見て非常に少なく、このためにこれらの多くはメーカーの鋼種名で流通している「メーカー名」で呼ぶことを習慣づけていただき、出来れば同じメーカーの品物を使い続けることをおすすめします。
たとえば、JIS鋼種の「SKD11」は日立金属「SLD」、大同特殊鋼「DC11」、日本高周波鋼業「KD11」、山陽特殊製鋼「QC11」・・・などでますが、各社とも、JISに定めた以上のレベルの製品を製造しています。しかし、メーカーごとに製造方法や考え方が違いますので、熱処理した場合にも、メーカーの特徴が現れます。近年は熱処理上でのメーカー差は少なくなりましたが、最高硬さや、被削性、研削性、熱処理曲線に現れる違い・・・などでメーカー毎に歴然とした特徴があると言われる方も多くおられます。
その違いの中でも、当社で困ることは、熱処理時の変寸です。熱処理の組織変化によって、長さや体積が変化するのは避けられません。そこで、メーカーでは、焼戻し温度と変寸率を示すデータを公表していますが、現実的には、それらは目安でしかありません。
長年の経験やデータから変寸を予測して熱処理前の加工をしますが、例えば0.01%の反対予測をしてしまうと、当社のように5mの品物を熱処理すれば、1mmの誤差になってしまう危険があります。この変寸が、小さな品物の変形の要因になるのですが、これが苦労の種なのです。
この変形だけをみても、材料の素性によるものが大きいので、同じメーカーの材料を使うことで、その対策が立てやすいということがメーカーを固定する理由の一つでしょう。 [目次に戻る]
◎鋼種がわからないけれど熱処理できますか?
今日でも「SKD11=ダイス鋼」「SKS3=特鋼」「SK5(今はSK85)=ゲージ鋼」などという俗称名で呼ぶ方もおられます。
JIS名もどんどん変わって来ています。「油焼き用SK3→SKS93」になっていますし、先の「SK材」も、新規格に変わっています。その上、メーカー各社各様の鋼種名が存在しますし、当社のような自社特有の材料なども入り乱れていて、すべての鋼材の名前や特性を把握することさえも大変です。当社では、メーカー各社さんとお付き合いがありますので、メーカーに問い合わせて対応できるのがほとんどですが、実は、メーカーでも、出荷以降に変更されるものなどがあって、わからないものもあるといいます。それも、企業の守秘問題があるので、当社では熱処理依頼をお断りするものもありましたし、技術資料が無くて、お客様が指定される熱処理条件で熱処理したり、お客様が来社されて設備をお貸しして熱処理した例もあります。今後ますます「ケースバイケース」が増えるのでしょうか。それとも、鋼種の集約が進むのでしょうか。 [目次に戻る]
1970-80年代の昔の記憶をたどると、工具といえば、「ゲージ鋼」SK材や「トッコウ」と言われるSKS材が主流で、SKD材は超高級鋼でした。製鋼メーカーもいろいろな鋼種を開発し、当社のような一般熱処理業者も、それらの新鋼種でも(小口の品物であっても)お客様の希望や要求をすべて受け入れて、多様な熱処理をしていた「元気な」時代でした。今日のような「真空熱処理」は一般的でなく、刀鍛冶のように、炉の火色と品物の色を見ながら熱処理しており、ある意味で「神々しい」仕事でした。それが、昭和の末期以降、熱処理炉も大型化し、利益や処理の効率を上げるために、熱処理屋さんは小口の品物や特殊な仕様を嫌う傾向になってきたことは間違いありません。
それもあってか、材料メーカーも生産・販売効率を高めるために、鋼種を集約化し、流通している鋼種も、どんどん少なくなったうえに、材質も高級化して、過去には自分でガスバーナーなどであぶって、水や油に入れて焼入れする方法でもそれなりに使えていた鋼が、今は1000℃を超える焼入れ温度の鋼が多くなって、いろんな鋼を使ってみたくても熱処理が難しいとか、それらを熱処理業者さんに頼むにも、どのように頼んでいいのか戸惑っている人も多いのではないでしょうか。
幸い、材料を購入した業者さんで熱処理まで面倒をみてもらえることで便利にはなっているのですが、(本文でも説明していきますが)その熱処理屋さんでも、個別の要求に応じるのは制限があり、なるべく「標準仕様」で手離れを良くしたいという事情もありますので、小口の品物の場合は特に、こちらから指定した熱処理をしてもらうのは、時を経るごとに難しくなっているでしょう。
当社(第一鋼業)でも大容量化は避けられず、小口の品物については、熱処理条件が合う鋼種や仕様のものをまとめて熱処理しますので、「こだわりの熱処理」ができないことが多くなっているといえますが、小口専門とも言える「ソルトバス」を使った熱処理によって、かなり自由度が高い熱処理が出来ることもあって、それを細々と運用しています。「ソルトバスのWEB熱処理サービス」もやっています。
ただ、残念なことに、ソルトバス熱処理は、熱処理特性上の長所も多いのですが、環境対策面の費用や熱処理手間や効率などのデメリットがあり、「消えゆく運命」途上にあります。設備を維持出来る期間も永くないでしょう。 [目次に戻る]
熱処理の目的のほとんどは、鋼の場合には「硬くする」ことでしょう。硬さ値がいろいろな機械的性質を代替えして評価できる為ですが、刃物や工具、機械部品では、機械的性質を向上するために熱処理するということになります。
でも、どのくらい硬くするのかという硬さ値を決めることって、難しいと思いますし、値が1つ違えばその効果が大きいと思うのですが、今から30年ほど前には、その「硬さ」すら指定しないで「熱処理してください(実際は、大阪弁で、『焼入れしといて!』となりますが)」と品物を持って来られる方がたくさんおられる状況でした。
今のように、営業が窓口となっておらず、品物と伝票類は現場での受け渡しをしていましたし、納品書などにも硬さ指示がないものも多かったのですが、それでも現場担当者は、事無げに納品書に硬さを書き入れて、伝票(指示書)発行の手配に回していました。 今から考えると、それでトラブルがなかったのは不思議ですが、「もうちょっと、やわらかめに」「ピンピンにいれて!」というようなお客さんの希望を入れて品物の品質を調整していたことも確かで、ISOに従う今日の手続きと比べると、顧客満足度レベルがむしろ高かったように思えます。
一昔まえには、「図面指示に熱処理が必要と書いてあるのでお願いします・・・」とか、「焼入れしてください」「硬くしてください」と、仕様内容を決めずに熱処理依頼をされるお客様がおられましたし、とにかく「硬くなればいい」「焼いてくれればいい」「おまかせします」「JISの硬さで・・・」などとおっしゃるお客さんにも、打ち合わせて仕様を決めればいいことなので、特別に気にすることはありませんでした。
それが未だに、「全体焼入れ S45C 60HRC以上」という図面仕様も見受けられますし、設計者が分かっているのかいないのか、熱処理上困難な仕様や、用途から考えても「変な仕様」が書かれていることにも遭遇します。大会社の設計者の方でも、熱処理や材料特性を知らない人が意外に多いことにびっくりすることも多いのですが・・・・。
古き時代には、現場の担当者がお客様の品物の仕様決定から要望などのすべてを聞いて処理していたものですが、今では営業部員が担当する様になっています。何らかの面で良くなったのでしょうが、営業部員より現場の担当者のほうが知識も豊富な人が多いので、顧客満足度や確実性から言えば、昔の仕組みのほうがよかったように思えるのは、私自身が昔人間の仲間入りをしてしまっているのでしょうかね? [目次に戻る]